多機能性を付与したスギ内装材の開発( 第2報)
- スギ材の草木染め-
大野善隆
*
・石井信義
*
・豊田修身
*
・兵頭敬一郎
* *
*
日田産業工芸試験所
・
* *
産業デザイン班
Dev el opm
ent of Sugi I nt er i or St uf f t hat Add M
ul t i f unc t i on ( 2nd Repor t )
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Hi t a I ndus t r i al Ar t Res ear c h Di vi s i on
* *
I ndus t r i al Des i gn Di vi s i on
要
旨
スギ材の草木染めとして,色の発色や安定性の良い染織用市販植物染料のラックダイやロックウッドと金属塩媒
染剤5種の組み合わせからなる染色液をスギ材に塗布し,発色の違いや染色性と色の安定性との関係について検討し
た.その結果,ラックダイやロックウッド染液による着色は媒染剤との組合せにより,発色が異なることが分かっ
た.一部は,木工用に市販されている染料や顔料の着色剤と同程度の色の安定性を示すものがあり,これらはスギ
内装材に充分利用可能な着色と考えられる.
1.
はじめに
十数年前から,健康や環境対応を意識して木材・木製
品に天然素材を原料とした塗料が塗られるようになって
きた.そこで筆者は,「自然塗料の実用上の耐久に関す
る研究」を行ない平成9年度,10年度にその結果を報告
した.
1 ) 2)
また,平成12年度には「植物染料による木
材着色の研究」を行ない,その結果を報告した.
3)
近年、繊維・染織の染料として用いられている植物染
料を天然の着色材として見なおし,天然系塗料と組合わ
せた木製家具や工芸品に利用することが試みられている.
4)
草木染めは,植物染料に含まれる発色成分(植物染
料)に灰汁等に含まれる金属イオン(媒染剤)との結合
により発色と定着とをさせる染色技術で染織工芸の分野
では糸や布を染める技術として一般的に行われている.
木材の着色として用いる場合,植物染料や媒染剤や被塗
物の木材成分等が大きく関わり発色が異なるが,既存の
合成染料や顔料による木材の着色と異なる自然な色が得
られ,木工芸品や家具製品への利用が期待できる.
本研究では,平成12年度に実施したキリ材での実験結
果(未発表)をもとに,色の発色や安定性の良い染織用
市販植物染料のラックダイ( Lac c i f er Lac c a:カイガラ
虫の一種) やロックウッド( Haemat oxyl on
c ampec hi anum:マメ科の心材) と金属塩媒染剤5種の組
み合わせからなる染色液をスギ材に塗布し,発色の違い
や染色性と色の安定性との関係について検討したので報
告する.
2. 実験方法
2. 1 植物染料着色塗装試料の作製
スギ材(赤太,白太,赤白太,寸法:60mm× 60mm×
5mm)を超仕上げ研削後,ワイドベルトサンダー(研磨
紙#240)で素地調整したもを供試木材とした.
水に市販の植物染料(ラックダイ,ロックウッド: T
社)と金属塩媒染剤(錫液,アルミ液,銅液,鉄液,チ
タン液: T社)と染料溶解剤(T社)を5%濃度に混合調整
した染液を供試木材に刷毛で1回塗布した.24時間乾燥
後,その上に,市販自然塗料(3種:A社)を下塗り,中
塗り,上塗りの順で塗布(刷毛塗り→拭き取り)し,
「植物染料着色塗装試料」とした.各塗料の乾燥時間は
24時間とした.
屋内暴露試験の比較用として,木工用市販の水性顔料
着色剤(オーク色5%濃度:O社),NGR染料着色剤
(オークブラウン色5%濃度:W社)等を着色剤とした
「比較用着色塗装試料」を作製した.
2. 2 屋内暴露試験
「植物染料着色塗装試料」と「比較用着色塗装試料」
とを,窓際の南面45度に試料を設置し,平成18年11月14
日∼21日の1週間屋内暴露を実施した.
2. 3 測色と評価
分光測色計(ミノルタ製:CM- 508d)で未処理,染色
前後,屋内暴露後の表面色を測色し,マンセル表色系
(HV/ C)及びCIEL*a*b*表色系( L*,a*,b*) で表示す
色安定性を評価するために,染料には染色性の大きい
ものと小さいものがあり,染色性の大きい(多くは濃色
化する)ものは退色(室内暴露試験による色変化)によ
って元の色に近づく傾向に見られ,視感ではあまり変化
が感じられないのにその数値でだけで見ると,染色性の
小さいものより相対的に大きな値になることを考慮して,
色の安定性指数(S)を下式により求めた.
4)
S=(│⊿E*ab c - ⊿E*ab w│)/⊿E*ab c
⊿E*ab c :染色前後の色差
⊿E*ab w:屋内暴露試験前後の色差
3.
結果及び考察
3. 1 植物染料の発色
ラックダイやロックウッドと媒染剤の組合せによる発
色(HV/ C,L*,a*,b*)をTabl e. 1∼2に,色相(a*−
b*)をFi g. 1に示す.
ラックダイの発色は媒染剤の種類によって異なり,明
度( V) :4. 3∼5. 6は違いは少ないものの,色相( H) :
1. 0R( 紫みの赤) ∼9. 7YR( 赤みの黄) は範囲が広く,かつ
彩度( C) :2. 3∼10. 0は著しく異なり,媒染無:紅梅色,
錫媒染:紅緋,アルミ媒染:薔薇色,銅媒染:土色,チ
タン媒染:小豆色,鉄媒染:朽葉色に近似した.これら
の,発色の違いはラックダイに含まれる色素成分のラッ
カイン酸と媒染剤に含まれるる金属イオンとの結合によ
るものと考えれる.
ロックウッドの発色も媒染剤の種類によって異なり,
明度( V) :3. 8∼5. 9は違いは少ないく,色相( H) :
7. 2R( 黄みの赤) ∼1. 1Y( 黄) は範囲が狭く,かつ彩度
( C) :2. 3∼9. 0は著しく異なり,媒染無:卵色,錫媒
染:桧皮色,アルミ媒染:紅海老茶,銅媒染:朽葉色,
チタン媒染:灰茶色,鉄媒染:朽葉色に近似した.これ
らの,発色の違いはロックウッドに含まれる色素成分の
ヘマチンと媒染剤に含まれるる金属イオンとの結合によ
るものと考えれる.
また,赤太材に媒染剤のみを塗布した場合,銅や鉄の
媒染剤においてのみ著しい発色(銅媒染:栗色
HVC=2. 0YR 4. 3/ 5. 0 L*=43. 85 a*=19. 38 b*=20. 47 鉄媒
染:琥珀色HVC=8. 7YR 4. 4/ 2. 4 L*=45. 21 a*=5. 39
b*=14. 08)がみられた.このことから,白太材と赤太材
との発色の違いは,素材色が異なることに加え,赤太材
に含まれる色素成分と媒染剤に含まれる金属イオンとの
結合によるものと考えれる.さらに,銅や鉄の媒染剤に
よる着色方法は白太部分を含まない赤太材のみで構成し
た製品には有効な方法とも考えられる.
Tabl e. 1 ラックダイ染液と媒染剤の組合せによる発色
色表示 未染色 媒染無 S n媒染 Al媒染 C u媒染 T i媒染 F e媒染
H 8.9Y R 2.7Y R 6.8R 1.0R 6.8Y R 8.8R 9.7Y R
V 7/ 5.6/ 5.6/ 4.7/ 4.9/ 4.3/ 5.0/
C 5.5 5.1 10.0 6.7 2.3 3.0 3.2
L * 70.3 56.51 57.09 47.97 49.92 44.15 50.46
a* 9.68 17.9 41.63 30.11 6.39 13.28 5.64 白
太 材
b* 32.8 21.77 26.52 7.14 12.27 9.07 19.36
H 7.0Y R 3.5Y R 8.9R 7.6R 1.1Y R 1.5Y R 8.3Y R
V 5.7/ 5.2/ 5.4/ 4.8/ 4.0/ 4.8/ 4.7/
C 5.5 5.2 7.7 5.3 3.6 3.7 2.8
L * 57.95 52.85 54.37 49.04 40.47 48.88 48.09
a* 13.85 17.4 30.78 23.00 15.48 14.32 6.60
赤 太 材
b* 30.30 23.34 24.88 14.79 14.02 14.41 16.47
Tabl e. 2 ロックウッド染液と媒染剤の組合せによる発色
色表示 未染色 媒染無 S n媒染 Al媒染 C u媒染 T i媒染 F e媒染
H 8.9Y R 9.7Y R 0.1Y R 7.2R 1.1Y 4.5Y R 9.6Y R
V 7/ 7.1/ 5.1/ 4.9/ 5.0/ 4.8/ 4.6/
C 5.5 9.0 3.2 3.9 2.7 2.4 2.3
L * 70.3 71.27 52.19 49.41 51.08 48.14 47.13
a* 9.68 13.33 12.72 16.95 3.35 7.9 4.34 白
太 材
b* 32.8 55.29 10.99 10.14 17.33 11.22 14.08
H 7.0Y R 8.4Y R 1.2Y R 9.0R 4.0Y R 5.2Y R 8.0Y R
V 5.7/ 5.9/ 5.0/ 4.8/ 3.8/ 4.7/ 4.0/
C 5.5 6.6 3.54 3.52 3.2 2.8 1.5
L * 57.95 60.36 50.49 49.09 38.8 48.00 39.81
a* 13.85 13.45 13.56 14.72 12.07 8.85 4.20
赤 太 材
b* 30.30 38.75 13.19 10.94 15.23 13.85 8.86
- 10 0 10 20 30 40 50 60
- 10 0 1 0 20 3 0 4 0 50 6 0
a*
b
*
Fi g. 1 染液と媒染剤の組合せによる発色色相( a*- b*) - 10
0 10 20 30 40 50 60
- 10 0 1 0 20 30 4 0 50 6 0
a*
b
*
ラ ッ ク ダ イ : 赤 太 材
- 10 0 10 20 30 40 50 60
- 10 0 1 0 20 30 4 0 50 6 0
a*
b
*
- 10 0 10 20 30 40 50 60
- 10 0 1 0 20 30 4 0 50 6 0
a*
b
*
ロ ッ ク ウ ッ ド : 白 太 材 ロ ッ ク ウ ッ ド : 赤 太 材
⃝未染色 □媒染無 ◆S n 媒染 ■AL 媒染 ▲C u 媒染
×T i 媒染 *F e 媒染
3. 2 染色性と色の安定性
ラックダイやロックウッドの染液の染色性( ⊿E*ab) と
色の安定性( S) との関係ををFi g. 2に示す.
ラックダイの染色性は赤太材( ⊿E*ab=30∼50) より,
白太材( ⊿E*ab=20∼40) の方が良く,また全て試料にお
いて色の安定性はS=0. 8以上であり,木工用市販の染料
着色剤や顔料着色剤と同程の安定性があることが分かっ
た.このことから,スギ内装材に十分利用可能な着色と
考えられる.
ロ ッ ク ウ ッ ド の 染 色性は赤太材( ⊿E*ab=15∼35) より,
白太材( ⊿E*ab=25∼40) の方が良く,色の安定性は銅や
鉄媒染がS=0. 8以上で高く,錫,アルミ,チタンがS=0. 8
以下,媒染無はS=0. 5以下で低い.銅や鉄媒染はスギ内
装材に十分利用可能な着色と考えられるが,その他は用
途を考慮する必要がある.
4.
まとめ
( 1) ラックダイやロックウッドによる着色は媒染剤との
組合せにより,発色が異なることが分かった.
( 2) 木工用に市販されている染料や顔料の着色剤と同程
度の色の安定性を示すものがあり,これらはスギ内装材
に充分利用可能な着色と考えられる.
参考文献
1) 大 野 善 隆:大分県産業科学技術センター平成9年度
研究報告,156- 159(1997)
2) 大 野 善 隆:大分県産業科学技術センター平成10年度
研究報告,145- 147(1998)
3) 大 野 善 隆:大分県産業科学技術センター平成12年度
研究報告,108- 110(2000)
4)上田友彦:色材カルチャーテキスト9 色材協会中部
支部,26- 29(1997)
0 .0 0 .2 0 .4 0 .6 0 .8 1 .0
0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0
染 色 前 後 の 色 差 (⊿ E * ab)
色
の
安
定
性
(
S
)
ラ ッ ク ダ イ : 白 太 材
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染 色 前 後 の 色 差 (⊿ E* ab)
色
の
安
定
性
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S
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ラ ッ ク ダ イ : 赤 太 材
ロ ッ ク ウ ッ ド : 白 太 材
ロ ッ ク ウ ッ ド : 赤 太 材
□媒染無 ◆S n 媒染 ■AL 媒染 ▲C u 媒染 × T i 媒染
*F e 媒染 +染料着色 −顔料着色